2020年度なわてんメインビジュアルは「めでたきもの」
むらさきなるものは めでたくこそあれ
2020年度なわてんのテーマカラーは紫です。
古代の世界では、紫は天上の色、天帝の色として畏怖されてきました。
魏志倭人伝には、魏の皇帝が倭国の卑弥呼に金印と紫の綬(じゅ・金印を下げるための紐)を送ったと記されています。
聖徳太子によってまとめられた冠位十二階でも紫は最高位の色として位置付けられています。
平安時代に清少納言が記した「枕草子」の「めでたきもの」の段でも紫色は賛美されています。
「めでたき」とは、すばらしい、見事な、りっぱなという意味です。
めでたきもの。(中略)色あひふかく花房ながく咲きたる藤の花の松にかかりたる。
(中略)葡萄染(えぶぞめ)の織物。すべてなにもなにもむらさきなるものはめでたくこそあれ。花も糸も紙も。
(中略)六位の宿直(とのゐ)姿のをかしきも、むらさきのゆゑなり。【現代語訳】
すばらしいもの。(中略)色合いが深くて、花房が長く咲いてる藤の花が、松の枝に掛かっている様子。
葡萄染(えびぞめ)の織物。すべて何もかも、紫色のものは素晴らしい。花も糸も紙も。(中略)六位の蔵人(官職のひとつ)が装束をつけた姿が素敵なのも、紫色だからである。
いとおかし は大きな感動
今年はイラストレーションの授業の受講生と紫に関連する事柄を調べ、その中から枕草子の冒頭に注目してメインビジュアルを制作しました。
春はあけぼの やうやう白くなりゆくやまぎは すこしあかりて 紫だちたる 雲の細くたなびきたる
この有名な書き出しに出てくる紫をモチーフに、その時代、場所、風景、色、時間帯、方角などを調べ、それをコーディングで表現してみました。
枕草子は、日本三大物尽くしのひとつとして有名な清少納言の随筆で、良いもの、素晴らしいものを集めた類聚章の中で語られる「いとおかし」は「大きな感動」を表しています。
現代語に訳すと「素敵!」「カワイイ!」のような現代の私たちにも共通する感覚ですね。
「あけぼの」は「日の出前」の時間帯
枕草子が書かれた時代の春は、立春から立夏までの間をさすので、今の2月4日~5月5日までです。
そして、あけぼのは日の出前にぼんやり陽の光で明るくなり始める時間帯です。
日の出・日の入マップで見てみると、この時期の京都の日の出時刻は、2月4日は6:54、5月5日は5:03となっていますので、だいたいその少し前のまだ少し薄暗い時間と考えられますね。寒そう!
そして、清少納言がいた京都の宮中から東南を見た日の出の方向には低い山が連なっています。
まだ薄暗い夜明け前、ぼんやり見える山の稜線と空に細い雲がかかっている風景を思い浮かべながら、次はそれをコーディングで表現する試みです。
ノイズ関数で「やまぎは」を描く
自然の山の風景の形はランダムに凸凹しています。
プログラミングではランダムという関数があり、引数が空の場合は0から1の間の乱数を返します。
ランダム関数で得られた乱数の変化の例
0.9133515540061907
0.14684621994755184
0.3818349058071461
0.69174068990619793
0.2279233861494215
ランダム関数で発生する前後の値に関係性はなく、全くばらばらの値になっているので山の稜線には見えません。
山の稜線などのように自然界に存在するランダムは滑らかに変化するものが多く、このようなランダムを発生させるのがノイズ関数です。
ノイズ関数は、ランダム関数と同じく0から1の間の乱数を返す関数ですが、ランダム関数と違うのは、引数にシード値(ランダムシード)と呼ばれるランダムを生成するための数値を渡すことです。
このシード値によって、最初の値からどれくらいの範囲で変化させるのかを制御することができます。
そのため、結果はバラバラの値ではなく、変化率を小さくすればするほど緩やかに変化する値を得ることができます。
この関数を使ってみんなで描いた様々な山の稜線です。
最終的には、ノイズ関数で作成した山の稜線ではなく、京都のなだらかな山々を強調するためにサインカーブで描いたものにしましたが、同様の方法で細くたなびく雲も作ってまとめたのが今回のロゴの背景のグラフィックです。
ソースコードはこちらのOpenProcessing|kuralabで公開していますので、触ってみてくださいね〜。